競輪つれづれ(あの日の競輪) 神山雄一郎
古性優作の男泣きを見て思い出す、32回目のビッグで掴んだ「涙の栄冠」
神山雄一郎 58歳 栃木 61期(日本競輪選手養成所所長)
クレバーで口数少ない冷静な男が、溢れる涙を何度も拭った。古性優作の完全優勝で幕を閉じた、日本選手権競輪(競輪ダービー)での感動のシーンだった。終わってみればS級S班3人で、上位独占という結果に終わった。
古性の男泣きをみながら真っ先に思い出したのは、現日本競輪選手養成所の神山雄一郎だ。61期のスーパールーキーとして88年5月にデビュー。華々しい実績を誇りながら、89年の競輪祭の新人賞以外はタイトルにどうしても手が届かない。前92年には65期の吉岡稔がダービー、競輪祭、競輪グランプリ(GP)を優勝し、後輩に先を越されていた。神山の焦りはいかばかりか。そんな中で迎えた地元・宇都宮競輪場で行われた93年9月のオールスター競輪。デビュー6年目、自身32回目のビッグレース(新人王を含む)出場で喉から手が出るほどほしかった初タイトルを手にした。この時の神山の泣きじゃくる姿が、記憶にない往年のファンはいないはずだ。男泣きというより辺り憚らず泣いた。
それまでどれだけ苦しんだか。地元の声援の中で掴んだ栄冠、全国の神山ファンにとっても待ちに待った神山のタイトルだった。その後はケチャップが出た!かのようにタイトルを積み重ね、新人賞を含めてその数26。神山にとっては93年オールスターがVロードの始まりだった。
古性は昨年のケガに苦しんだ。本来のコンディションになかなか戻らない。今回は4人いるS班で決勝戦にコマをすすめた近畿勢は古性一人。苦しい中で獲得したタイトル。ゴール後は21年静岡GPを制した時と同じように何度もありったけの力でガッツポーズ。そしてその感激はすぐに涙として流れた。
競輪選手にはなぜか男泣きが似合う。競輪にあって他のギャンブルにはないのは自分の力でペダルを漕ぎ、流した汗の数。それが勝敗に直結する。かいた汗の数だけ涙に血がにじむ。
「涙の栄冠」は競輪だからこそ、だ。
(峯田淳)